固定残業代とは?計算・違法条件・求人の見極め方

賃金明細の「固定残業代」という欄を、正確に理解している方はどれだけいるでしょうか。残業が多い月も少ない月も、同じ金額が支払われます。それを「安定している」と感じている方もいるかもしれません。しかし、固定残業代は一定の条件を満たさなければ違法になる制度です。仕組みを知らなければ、正当な賃金が支払われているかどうかを、自分では確認できません。この記事では、固定残業代の定義・計算方法・違法条件・求人票の見極め方を、法的根拠とともに整理します。
- 固定残業代は「所定時間分の残業代を賃金に含める制度」で、一定の要件を満たさなければ法的に無効になる
- 固定残業時間を超えた場合は追加支払いが義務となり、計算方法を知ることで適正かどうかを自分で確認できる
- 求人票に明示された時間数と基本給の関係を正確に把握することが、転職先選びの判断基準になる
目次
1. 固定残業代とは何か——定義と法的根拠
固定残業代とは、一定時間分の時間外労働に対する割増賃金を、あらかじめ基本賃金に含めて支払う制度です。労働基準法第37条を根拠とし、基本賃金と固定残業代の金額が賃金明細で明確に区別されていること、かつ固定時間数を超えた分は別途支払うことが有効要件です(最高裁・日本ケミカル事件判決、平成30年7月19日)。要件を欠く場合、固定残業代の支払いは無効とみなされ、使用者は改めて割増賃金を支払う義務を負います。
1-1. 固定残業代の定義
固定残業代は「定額残業代」「みなし残業代」とも呼ばれますが、法令上の正式名称はありません。実務上は「あらかじめ設定した時間数(例:月30時間)の時間外労働に対する割増賃金を、月額賃金の一部として支払う制度」を指します。
分離表示型
月額賃金の内訳として「基本給20万円、固定残業代5万円(30時間分)」のように金額を分けて表示する方法
内包明記型
賃金全体をひとつの金額で示しながら「うち固定残業代○円(○時間分)」と明記する方法
いずれの場合も、固定残業代として認められるには、基本賃金部分と割増賃金部分の区別が明確でなければなりません。
1-2. 労働基準法第37条との関係
労働基準法第37条は、使用者が労働者に時間外労働をさせた場合、通常の賃金の2割5分以上(月60時間超の部分は5割以上)の割増賃金を支払うよう定めています。深夜労働(午後10時〜午前5時)は2割5分以上、法定休日労働は3割5分以上の割増が必要です。*1
固定残業代は、この法定義務を「あらかじめ支払う」形式で履行するものです。ただし、あらかじめ支払っているからといって、義務が免除されるわけではありません。固定残業時間数を超えて労働した場合には、超過分の割増賃金を別途支払う義務が生じます。
また、2019年4月施行の「働き方改革関連法」により、時間外労働の上限が原則として月45時間・年360時間に規制されています。固定残業時間数の設定は、この上限規制の範囲内でなければなりません。*2
1-3. みなし残業・裁量労働制との違い

「みなし残業代」は固定残業代と同義で使われることがありますが、「裁量労働制」とは異なる制度です。裁量労働制は、実際の労働時間ではなくあらかじめ定めた「みなし労働時間」で賃金を計算する制度で、業務の性質上労働者に裁量が認められる職種(専門業務型・企画業務型)に適用されます。
| 比較項目 | 固定残業代(定額残業代) | 裁量労働制 |
| 適用対象 | すべての労働者(制限なし) | 専門業務型・企画業務型のみ(法令で限定列挙) |
| 実労働時間の取り扱い | 実際の時間を計測し、固定時間数を超えれば追加支払い | みなし労働時間で計算。実労働時間は賃金に直結しない |
| 超過分の支払い義務 | あり(固定時間数を超えた分は別途支払い義務) | みなし時間内なし(深夜・休日は別途必要) |
| 法的根拠 | 労働基準法第37条・最高裁判例 | 労働基準法第38条の3・第38条の4 |
2. 固定残業代の計算方法——正しい算出式と時間数の目安
2-1. 基本の計算式と具体例
固定残業代が適正かどうかを確認するには、計算式を理解することが先決です。
固定残業代(時間外分)= 基本賃金(月額) ÷ 月所定労働時間数 × 1.25 × 固定残業時間数
上式の「1.25」は、労働基準法第37条が定める時間外労働の割増率(2割5分以上)に基づくものです。月60時間を超える時間外労働には1.50が適用されます(2023年4月より中小企業にも適用)。
具体例で確認します。基本賃金(月額)250,000円、月所定労働時間数160時間、固定残業時間数40時間の場合:(250,000円 ÷ 160時間)× 1.25 × 40時間 = 78,125円。求人票に「固定残業代あり(40時間分)」と記載されていても、支給額が78,125円を下回っている場合は、法定の割増賃金を満たしていないことになります。
2-2. 時間数の相場(20時間・30時間・40時間・45時間)
固定残業時間数は企業によってさまざまですが、厚生労働省の指針では、36協定の一般則上限である「月45時間」を超える時間数を固定残業代として設定することは、実質的に残業を常態化させることにつながるとして注意喚起されています。*2
以下の表は、基本賃金(月額)別・固定残業時間数別の固定残業代の目安です。求人票の記載と照らし合わせる際の参考としてお使いください。計算式:基本賃金÷月所定労働時間(160h)×1.25×固定残業時間数。
| 固定残業時間数 | 基本賃金250,000円 | 基本賃金280,000円 | 基本賃金300,000円 |
| 20時間分 | 約39,063円 | 約43,750円 | 約46,875円 |
| 30時間分 | 約58,594円 | 約65,625円 | 約70,313円 |
| 40時間分 | 約78,125円 | 約87,500円 | 約93,750円 |
| 45時間分(上限目安) | 約87,891円 | 約98,438円 | 約105,469円 |
※上表の計算は月所定労働時間160時間、割増率1.25(時間外)を前提とした目安です。各社の月所定労働時間数や割増率(深夜・休日等)によって金額は変わります。
2-3. 固定残業時間数を超えた場合の取り扱い
固定残業時間数を超えて時間外労働をした場合、使用者は超過分の割増賃金を別途支払う義務を負います。これは労働基準法第37条が定める強行規定であり、労使間で「超えた分は払わない」と合意しても無効です。
実務上、問題になるのは「超過分の記録が残っていない」ケースです。タイムカードやPCのログ等で実際の労働時間を証明できる状態にしておくことが、権利行使のための基本的な備えになります。
なお、2023年4月より中小企業にも適用された「月60時間超の時間外労働に対する割増率5割以上」のルールにより、固定残業時間数を大幅に超えて働いた場合には、割増率がさらに高くなる点にも注意が必要です。*2
3. 固定残業代が違法になる3つの条件
「固定残業代」という名称で支払われていても、要件を欠く場合は法的に無効とみなされます。最高裁は「日本ケミカル事件」(平成30年7月19日判決)において、固定残業代が有効と認められるための要件を示しました。その核心は「①区別明示」と「②最低額保障」の2点です。*3
3-1. 区別が明示されていない
固定残業代として支払われるためには、賃金明細や労働契約書において「基本賃金部分」と「固定残業代部分」が明確に区別されていなければなりません。
「月額賃金35万円(残業代込み)」とだけ記載。基本賃金と残業代の金額が判別できず、区別明示要件を満たさない。
「基本給25万円、固定残業代5万円(30時間分)」のように金額・時間数が明確に分離して記載されている。
3-2. 計算上の割増賃金を下回っている
固定残業代の金額が、労働基準法第37条に基づいて算出した「法定割増賃金額」を下回っている場合も無効です。
具体例:基本賃金250,000円・月所定労働時間160時間の労働者に「固定残業代30時間分として3万円」と設定されていた場合、法定計算では(250,000÷160)×1.25×30時間=約58,594円が必要。3万円しか支払われていないため、差額分(約28,594円)の支払いが必要になります。
3-3. 超過分が支払われていない
固定残業時間数を超えて労働したにもかかわらず、超過分の割増賃金が支払われていない場合は、その超過分について違法状態が発生しています。固定残業代はあくまで「あらかじめ払う制度」であり、上限を超えた分の支払いを免除する制度ではありません。
3つの違法パターンをチェックリスト形式で整理します。賃金明細・労働契約書・就業規則を手元に用意し、3項目すべてを確認することをおすすめします。
| 確認項目 | ✅ 合法の状態 | ❌ 違法の状態 |
|---|---|---|
| ①区別明示 | 賃金明細または労働契約書に「固定残業代○円(○時間分)」と金額・時間数が明記されている | 「残業代込み」「諸手当含む」等の記載のみで金額・時間数の内訳が不明 |
| ②法定額以上 | 固定残業代の金額が、基本賃金をもとに算出した法定割増賃金額以上になっている | 固定残業代の金額が法定計算額を下回っている(差額が未払いとなっている) |
| ③超過分の追加支払い | 固定時間数を超えた月は、翌月または当月に超過分の割増賃金が支払われている | 固定時間数を超えても追加支払いがなく、「固定残業代で全部カバー」とされている |
なお、未払い賃金の請求権は労働基準法の改正により、2020年4月以降に発生した賃金については時効が3年となっています(改正前は2年)。時効の起算点は賃金の支払日となるため、過去3年分についての請求が可能です。*4
4. 求人票で固定残業代を正しく見極める方法
4-1. 確認すべき3つのポイント
固定残業代の仕組みを理解したうえで求人票を見ると、読み取れる情報の深さが変わります。
- ① 固定残業時間数と基本賃金の両方が明記されているか:「固定残業代あり」の記載だけでは、時間数も金額も不明です。「月30時間分・38,000円を含む」のように、時間数と金額が具体的に記載されているかを確認します。
- ② 固定残業代を除いた基本賃金が最低賃金を上回っているか:月額賃金から固定残業代を差し引いた金額を月所定労働時間数で割り、時間あたりの賃金を算出します。令和6年度(2024年度)の全国加重平均最低賃金は1,055円です(厚生労働省発表)。*5
- ③ 固定残業時間数が36協定の上限(月45時間)以内か:固定残業時間数が45時間を超えている求人は、恒常的な長時間残業を前提としている可能性があります。「月80時間分の固定残業代」等の記載がある場合は、特別条項付き36協定の範囲内かどうかを含めて慎重に確認が必要です。
| 確認ポイント | 適正な記載例 | 要確認・注意が必要な記載例 |
| 固定残業の明示 | 「固定残業代:38,000円(30時間分)を含む」 | 「残業代込み」「諸手当含む」のみで時間数・金額が不明 |
| 時間数の水準 | 月30時間以内(36協定上限月45時間に余裕あり) | 月45時間超、または「固定残業代は実態に合わせて変動」等の曖昧な表現 |
| 超過時の取り扱い | 「固定時間超過分は別途支給」と明記されている | 超過時の扱いについて一切記載がない |
4-2. 面接・入社前に確認すべきこと
求人票の記載だけでは判断しきれない場合、面接や内定後の書面確認の段階で以下を確認することを検討してください。
- 実際の月平均残業時間の実績(過去1年分)
- 固定残業時間数を超えた場合の追加支払いの実績・手続き
- 労働条件通知書または雇用契約書における固定残業代の記載内容
- 就業規則における残業代の規定
「面接で聞くのは失礼ではないか」と感じる方もいるかもしれません。ただ、労働条件の確認は求職者の権利です。入社後のトラブルを防ぐためにも、事前確認は双方にとって誠実な行為です。
4-3. リモートワーク求人と固定残業代
リモートワーク対応の求人では、業務の進め方が成果ベースになるケースが多く、労働時間管理の透明性を重視する企業が増えています。テレワーク環境では、PCログや業務管理ツールによって労働時間の記録が可視化されやすい側面もあり、固定残業代の超過分把握がしやすいという特徴があります。
固定残業代の条件が不明瞭な職場や、恒常的な長時間残業に疑問を感じているなら、転職という選択肢を検討する価値はあります。リモートワーク対応の正社員求人に特化した転職支援サービスを活用することで、条件が明確な求人を効率よく探すことができます。
5. まとめ:固定残業代の仕組みを知ることから始める
- 固定残業代は有効要件が3つある:区別明示・法定額以上・超過分支払いの3要件を満たさなければ法的に無効になる
- 計算式で自分でチェックできる:「基本賃金÷月所定労働時間×1.25×固定残業時間数」で、求人票の記載と照合することで適正かどうかを確認できる
- 45時間超の求人は慎重に:36協定の上限(月45時間・年360時間)を大幅に超える固定残業時間数が設定されている求人は、実態を確認する必要がある
- 未払い賃金は3年以内に請求できる:2020年4月以降発生分について時効3年。記録をもとに請求可能
- 求人票では3点を必ず確認:固定残業時間数・金額・超過時の取り扱いを入社前に確認する
仕組みを知ることが、適正な労働条件を選ぶ第一歩です。転職を検討しているなら、条件の透明性を判断軸のひとつとして、求人を比較することをおすすめします。
6. よくある質問(FAQ)
Q1. 固定残業代と残業代は同じですか?
A. 固定残業代は残業代の一種ですが、支払い方が異なります。通常の残業代は実際の時間外労働に応じて毎月計算して支払うのに対し、固定残業代はあらかじめ設定した時間数分を月額賃金に含めて一定額を支払う制度です。固定残業時間数を超えた分については、通常の残業代と同様に追加支払いが必要になります。
Q2. 固定残業時間を1分も超えなかった月も、固定残業代は支払われますか?
A. 原則として支払われます。固定残業代は「あらかじめ支払う」制度であるため、実際の残業時間が固定時間数に満たなかった場合でも、固定残業代の支払い義務は消滅しません。ただし、就業規則や労働契約書の定めによっては「不使用分の減額」を認める規定がある場合があります。その場合も、減額後の金額が最低賃金を下回ってはなりません。
Q3. 固定残業代が違法の状態にある場合、どうすればよいですか?
A. まず、タイムカードやPCログ等で実際の労働時間の記録を保全することが重要です。そのうえで、①会社に対して不足分の支払いを求める、②都道府県労働局または労働基準監督署に相談する、③弁護士・社会保険労務士に相談する、といった手段があります。未払い賃金の請求時効は、2020年4月以降発生分について3年です(労働基準法第115条改正)。*4
Q4. 求人票に「固定残業代(30時間分)あり」とある場合、30時間の残業が必ずあるということですか?
A. 必ずしもそうではありません。固定残業代は「その時間数分の割増賃金をあらかじめ支払う」制度であり、30時間の残業を義務付けるものではありません。ただし、固定残業時間数が高い求人ほど残業が多い実態がある場合もあるため、実際の月平均残業時間を面接等で確認することを検討してください。
Q5. 固定残業代なしの求人を探すことはできますか?
A. 固定残業代なしの求人は存在します。求人検索時に「固定残業代なし」「時間外労働なし」「残業少なめ」等の条件で絞り込む方法のほか、転職支援サービスのアドバイザーに「固定残業代のない求人を希望」と伝えて候補を絞り込む方法もあります。リモートワーク対応の求人は成果評価型の働き方を採用している企業が多く、残業管理の透明性が高いケースもあります。
Relasic(リラシク)について
Relasic(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク対応の正社員求人に特化した転職支援サービスです。公開求人3,790件(うちフルリモート1,428件)を保有し、勤務地にとらわれない転職を支援しています。固定残業代の条件が不明瞭な職場から、働き方の透明性が高い環境への転職を検討しているなら、まず求人をご覧ください。
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出典・参考情報
*1 e-Gov法令検索「労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)」
*2 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(2024年更新)
*3 最高裁判所「日本ケミカル事件 最高裁判決(平成30年7月19日)」
*4 e-Gov法令検索「労働基準法第115条(時効)」改正版(2020年4月施行)
*5 厚生労働省「令和6年度地域別最低賃金の全国一覧」(2024年10月発効)
*6 厚生労働省「求人情報の適正表示について」(2024年3月)
*7 テレリモ総研「テレワーク実態調査」(株式会社LASSIC運営)
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