中途採用の内定取り消し事例|経営悪化が理由でも無効の裁判例

中途採用の内定取り消しの事例には、経営悪化が理由でも無効とした裁判例(インフォミックス事件)があります*1。内定で労働契約が成立していれば、取り消しには解雇と同じく合理的な理由が要り、経営悪化なら人員整理の必要性など4つの要素で有効かどうかが決まります*2。判決は会社の努力を認めつつ、取り消す前後の誠実さを欠いた点などから無効としました*1。
経営悪化なら取り消せないという裁判例ではありません。取り消されたら、会社に理由の開示を求めてください*2。聞いた理由は、内定通知書や誓約書の記載と見比べます。
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監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事のポイント
- 中途採用でスカウトされて内定した人の取り消しを、経営悪化が理由でも東京地方裁判所が無効としました*1。会社が取り消しを避ける努力をしていたことは、判決も認めています*1。
- 内定で労働契約が成立していれば、取り消しには解雇と同じく合理的な理由が要ります*2。経営悪化が理由なら、人員整理の必要性など4つの要素で有効かどうかが決まります*2。
- 取り消されたら、会社に理由の開示を求めてください*2。内定通知書や誓約書、やり取りのメールは、内定の時点から手元に残しておきます。
1. 中途採用の内定取り消しが無効になった事例
インフォミックス事件(平成9年10月31日判決)では、スカウトで内定を得た人の取り消しについて、理由が経営の悪化でも東京地方裁判所は無効としました*1。採用内定は一般に、働き始める日を決め、内定通知書や誓約書に書かれた取消事由が生じたら解約できる条件を付けた労働契約を指すことが多いです*2。内定の段階で労働契約が結ばれているなら、会社からの取り消しは一方的な契約の破棄にあたり、解雇としての合理的な理由が要ります(労働契約法16条)*2。経営悪化が理由の取り消しは、人員整理の必要性や解雇を避ける努力など4つの要素に照らして、有効かどうかが分かれます*2。
最高裁判所は、大日本印刷採用内定取消事件(昭和54年7月20日判決)で、解約権を留保した就労始期付労働契約の成立を認めました*1。解約権を留保した就労始期付労働契約とは、働き始める日が決まっていて、一定の理由があれば会社が解約できる権利を残した労働契約のことです。そのうえで、この事件の取り消しは解約権の濫用にあたると判断しました*1。
ただし、大日本印刷の事件は新卒の採用で、内定通知のあと他社に応募せずにいた人が、入社2か月前に取り消されて就職先が決まらないまま卒業しました*1。インフォミックス事件で取り消されたのは、勤め先に在籍したまま声をかけられた中途採用の人で、辞退を勧められたのは入社の2週間前です*1。中途採用のオファー面談のあとに取り消されたときも、内定通知書や誓約書を受け取っていたかをまず見てください。
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2. スカウトから判決までのインフォミックス事件の経過
インフォミックス事件は、大手コンピューター会社に勤めていたXさんが、別の会社のY社からスカウトされ、中途採用の内定を得た事件です*1。Xさんが勤め先に退社届を出したあと、Y社は経営悪化を理由に内定を取り消しました*1。Y社は内定者に相応の補償を示して入社の辞退を勧め、Xさんには職種の変更も打診していました*1。
東京地方裁判所は、辞退の勧告が入社の2週間前だったことと、Xさんがすでに退社届を出して後戻りできない状態に置かれていたことを指摘しています*1。そのうえで、この取り消しはXさんに著しく過酷な結果を強いるものだとして、無効としました*1。退社届を出したあとで取り消されると、Xさんのように前の会社へ戻れず、次の勤め先も無い状態になる場合があります。
3. 会社の努力を認めたうえで取り消しを無効とした判決
判決は、経営の悪化などを理由にした取り消しについて、整理解雇(経営上の理由で人員を減らす解雇)の有効性を見る4つの要素をあわせて考えるとしました*1。そのうえで、取り消しが客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認できるかで結論を出しています*1。社会通念上相当とは、世の中の一般的な考え方に照らして妥当だという意味です。
実際、Y社は人員削減の必要性が高く、希望退職を募り、補償を示し、職種の変更も打診して、取り消しを避ける努力を尽くしていたと認められました*1。このため、取り消したこと自体には、客観的に合理的な理由があるとされています*1。経営悪化という理由そのものは、判決でも退けられていません。
ただし、取り消す前後の対応には誠実性に欠けるところがあった、と判決は指摘しています*1。内定に至るまでの経緯や、Xさんが著しい不利益を被っていることもあわせて考えると、取り消しは社会通念に照らして相当とは認められないとされました*1。合理的な理由があっても、相当と認められなければ取り消しは無効になる、というのがこの判決の結論です。
つまり、中途採用の内定取り消しが経営悪化によるものでも、会社の努力や取り消す前後の対応しだいで、有効とされる場合も無効とされる場合もあります。判決の結論だけを見て、自分の取り消しも無効になると決めてしまわないようにしてください。
4. 内定を取り消されたら理由を書面で求める
まず、会社に取り消しの理由を開示するよう求めてください*2。労働者は契約を一方的に破棄される立場なので、その理由を開示してもらう必要があるとされています*2。口頭で理由を聞いたときは、日付と話した相手を書き留め、同じ理由をメールでも送ってもらうよう頼みます。
次に、会社が挙げた理由を、内定通知書・誓約書にある取消事由と並べてください。挙げられた理由がどの取消事由にあたるのかを会社に聞き、書面に無い理由なら、そのことも記録に残します。書面の取消事由にあたる場合でも、それだけで取り消しが有効になるわけではありません*2。
勤め先の退職の手続きがどこまで進んだかも、書き出しておいてください。インフォミックス事件の判決も、退社届を出して戻る先の無いXさんの状態を、著しく過酷な結果として取り上げています*1。退社届を出した日、退職日、勤め先とのやり取りを日付の順に書き出すと、相談の場で事情を短く伝えられます。
最後に、そろえた書面と書き出した記録を持って、労働局の相談窓口に相談してください。理由が経営悪化なら、会社から示された補償や、職種の変更の打診があったかも書き添えます。こうした会社の努力は、インフォミックス事件でも取り消しの理由を支える事情として扱われました*1。
5. 内定の取消事由の例と有効かどうかを決める基準
取り消しが有効とされるには原則として、取消事由が、内定の時点で知ることができず、知ることも期待できない事実でなければなりません*2。そのうえで、その事実を理由に取り消すことが客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる場合に限られます*2。この基準は大日本印刷の事件で最高裁判所が示したもので、経営状況の悪化を除く表の事由はこの基準で見られています。
取消事由の例と有効かどうかを見る基準
| 取消事由の例 | 有効かどうかを決める基準 | 取り消されたら会社に聞くこと |
|---|---|---|
| 契約の前提となる条件や資格の要件を満たさない | 大日本印刷の事件の基準 | どの条件や資格を満たしていないのか |
| 健康状態の悪化 | 大日本印刷の事件の基準 | 健康状態の何が理由なのか |
| 重要な経歴詐称 | 大日本印刷の事件の基準 | どの経歴が事実と違うとされたのか |
| 重要な必要書類を提出しない | 大日本印刷の事件の基準 | どの書類が出ていないとされたのか |
| 経営状況の悪化 | 整理解雇に準じた4つの要素(人員整理の必要性・解雇回避の努力・解雇対象者の選定の合理性・手続の妥当性) | 人員整理の必要性と、取り消しを避けるために何をしたか |
一方、経営状況の悪化による取り消しは、整理解雇に準じて、表の最後の行に挙げた4つの要素を踏まえて決まります*2。表の事由はどれも厚生労働省のページが挙げる例で、ほかに「その他の不適格事由」も挙がっています*2。例に無い理由を挙げられた場合も、原則として大日本印刷の事件の基準で見られます*2。
6. 内定の通知を受けたら手元に残す書面とメール
中途採用で内定の通知を受けたら、取り消されたときに会社が挙げた理由と見比べられるよう、次の書面とメールを残してください。誓約書や入社承諾書は提出すると手元から無くなるので、出す前に控えを取っておきます。
内定をもらったら残しておくもの
- 内定通知書:受け取った日付が分かる形で保管する
- 誓約書や入社承諾書の控え:提出する前にコピーを取る
- 労働条件が書かれた書面:労働条件通知書など、入社後の条件が書かれたもの
- やり取りのメール:内定の連絡、入社日の調整、取り消しの連絡を消さずに残す
なお、勤め先に退社届を出すのは、内定通知書と労働条件が書かれた書面を受け取ってからにしてください。書面が届く前に入社日が近づいたときは、会社に送付の予定日を聞き、そのメールも残しておきます。メールは送られた日時と送り主が分かる形で保存すると、あとで経緯を日付の順にたどれます。
7. 中途採用の内定取り消しでよくある質問
Q1. 内定の取り消しに解雇予告の規定は当てはまりますか?
A. 取り消しが解雇とみなされれば、労働基準法の解雇予告の規定が適用される場合があるとされています*2。ただし、適用を否定した裁判例もあります*2。当てはまるかどうかは事情ごとに分かれるので、労働局の相談窓口で自分の状況を伝えて聞いてください。
Q2. 内々定の取り消しでも会社の責任を問えますか?
A. 内々定は多くの場合、労働契約を結んだという認識にまでは至っていないと考えられ、取り消しは解雇ではないとも考えられています*2。ただし、拘束の度合いが強ければ内定と認められることもあり、期待権(採用されるという期待)の侵害として損害賠償が認められることもあります*2。コーセーアールイー事件では、採用内定通知書を渡す予定日の直前に内々定を取り消された新卒の人に、福岡高等裁判所が慰謝料を認めました*1。この判決は、労働契約が成立していたとは言えないとしたうえで、期待権の侵害などを認めています*1。
Q3. 内定を承諾したあとに自分から辞退してもよいですか?
A. 内定者からの辞退は、基本的には問題ないとされています*2。ただし、あまりに信義則(信義に従い誠実に行動するという原則)に反する辞退だと、損害賠償を求められる可能性もあります*2。辞退するときは、承諾のときに出した書面の控えと、辞退を伝えたメールを残しておいてください。
あわせて読みたい | 内定承諾後でも辞退はできる|転職の手順とメールの例文
8. まとめ:内定取り消しの裁判例と取り消されたときの手順
内定取り消しの裁判例と手順のまとめ
- インフォミックス事件では、中途採用でスカウトされて内定した人の取り消しが、経営悪化を理由にしていても無効とされました*1。
- 内定で労働契約が成立していれば、取り消しには解雇としての合理的な理由が要ります*2。
- 経営悪化による取り消しは、人員整理の必要性など4つの要素で有効かどうかが決まり、会社の努力は判決でも認められています*1*2。
- 取り消されたら理由の開示を求め、書面の取消事由と見比べ、退職の手続きの進み具合を書き出して相談してください*2。
中途採用の内定取り消しは、会社の事情と取り消された人の事情をあわせて見て有効かどうかが決まるため、裁判例の結論をそのまま自分に当てはめることはできません。理由の開示を求めたうえで、書面と記録をそろえて労働局の相談窓口に持ち込んでください。内定の通知を受けた段階から書面とメールを残しておけば、相談の場でも経緯を順に示せます。
※公開中の求人数は時期によって変わります。記事中の求人の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 厚生労働省 確かめよう労働条件「採用内定の取消|裁判例」
*2 厚生労働省 確かめよう労働条件「採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点」
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