1社しか知らない状態から転職で強みに変えられる材料
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

同じ1社に長く勤めてきたエンジニアが転職を考えるとき、「他の会社を知らない」という不安が先に立ちます。ただし選考の場で読まれるのは、在籍した企業の数ではありません。その会社のなかで、どんな場面に立ち会い、どんな判断を重ねてきたかです。年数の長さそのものは、強みにも弱みにもなります。数の少なさをどう扱うかで、書類の印象は大きく変わります。
厚生労働省の調査では、転職入職率は9.7%です*1。1年間で会社を移る人は少数派で、同じ会社に長くとどまる働き方は珍しい選び方ではありません。1社の経験だけで転職市場に出ることは、少数派の選択ではないという前提から始められます。
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この記事のポイント
- 転職入職率は9.7%です*1。会社にとどまって働くことは、統計の上では多数派の選び方です。
- 2025年に転職した人は330万人でした*2。この数と比べても、在籍年数の長さは特別な少数派ではありません。
- 一般労働者の25〜29歳の賃金は月279.4千円です*3。1社に長くいた人は、この年代の水準からどれだけ賃金を伸ばしたかを、自分の成長を示す数字として使えます。
1. 1社の経験は、強みと弱みの両方を持ちます。
1社の経験だけでも、選考では強みとして読まれます。厚生労働省の調査では、転職入職率は9.7%です*1。1年間で会社を移った人は少数派で、同じ会社に長くとどまる働き方が珍しいわけではありません。読まれるのは在籍した企業の数ではなく、その会社のなかで、どんな場面に立ち会い、どんな判断を重ねてきたかです。
「他の会社を知らない」という不安は、比べる材料が手元にないところから来ます。ただし選考の場に出るのは書類に書かれた内容であり、在籍した企業の数そのものが直接評価されるわけではありません。
同じ会社にいた期間のなかで、任された仕事の中身が変わった回数、判断を求められた回数、そのつど何を選んだかが、書類を読む側の材料になります。年数の長さは、その材料の多さを示す1つの目安にすぎません。
一方で、1社の経験は書き方を誤ると弱みとしてそのまま読まれます。同じ経歴が、強みと弱みのどちらに読まれるかは、次の分岐で分かれます。
職務経歴書の1行に落とすときは、年数や部署名を並べるのではなく、「いつ・何が起きて・何を選んだか」の3点を書きます。年数だけを書いた行からは、判断の内容が読み手に伝わりません。
2. 同じ経歴でも、選考での読まれ方は分かれます。
1社の経験は、書き方によって読まれ方が変わります。同じ経歴でも、選考の場でどちらに転ぶかを図で整理します。
弱みとして読まれる場合には、共通した特徴があります。使う言葉が自社の中だけで通じる言い方に偏っていること、比べる相手を持たないために、良かった点と直したい点の切り分けができていないこと、手順の説明が「その会社ではこうする」で止まっていることの3つです。
強みとして読まれる場合は、同じ材料の見せ方が違います。仕組みが変わっていく様子を最初から最後まで見てきた経験、作った当時の事情と、後から出た不具合、直したときの判断まで、一続きの流れとして書かれています。
同じ人物の同じ経歴でも、書類に「在籍期間:5年」としか書かれていなければ弱みとして読まれ、「仕様変更の判断を3回主導」と書かれていれば強みとして読まれます。書類を読む側は、年数からではなく、書かれた判断の数から経験の厚みを見積もります。
分かれ目は経歴の年数ではなく、職務経歴書の行に何を書くかにあります。次の項では、その年数がそれ単体で何を意味するのかを確認します。
3. 在籍年数の長さは、それ単体では評価を決めません。
在籍年数が長いことは、それ単体では不利にも有利にもなりません。数字として意味を持つのは、その年数のなかで判断を求められた回数のほうです。同じ5年でも、任された仕事の中身が一度も変わらなかった5年と、任された仕事の中身が何度も変わった5年では、書類に書ける内容の量が違います。
1社の在籍が長い場合、判断を求められた回数を数え直す作業がまず必要になります。仕様を決めた場面、不具合の原因を切り分けた場面、優先順位を変えた場面。これらは日々の業務のなかに埋もれていて、振り返らなければ数として出てきません。
数え直す方法は、1年ごとに区切って書き出すだけです。その1年のなかで、自分が決めたことを1つでも思い出せれば、それが1件の判断になります。年数の長さは、この作業を繰り返せる回数の多さでもあります。
厚生労働省の調査では、転職入職率は9.7%でした*1。1年間で会社を移る人は少数派であり、同じ会社に長くとどまる働き方自体は珍しい選び方ではありません。珍しいかどうかと、選考でどう読まれるかは別の話です。
総務省の労働力調査では、2025年に転職した人は330万人でした*2。この数を踏まえても、在籍年数の長さそのものを理由に選考で不利になるとは言えません。読まれるのは年数ではなく、その年数のなかで積み上げた判断の回数です。
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4. 転職者数と入職率を、数字で並べて示します。
1社での在籍年数を考えるとき、比べる相手がいないという不安が出やすくなります。ここでは、転職に関する数字を表にして確認します。
【表1】転職に関する数字のまとめ(2024〜2025年)
| 指標 | 数値 | 対象 | 出典・備考 |
|---|---|---|---|
| 転職入職率 | 9.7% | 2024年・男女計・産業計 | *1 |
| 転職者数 | 330万人 | 2025年平均 | *2 |
| 25〜29歳の賃金 | 279.4千円 | 一般労働者・月額 | *3 |
表のとおり、1年間に転職する人は9.7%にとどまります*1。2025年の転職者数は330万人でしたが*2、これは労働力全体からすれば一部にすぎません。同じ会社に長くとどまる働き方のほうが、統計の上では多数派です。
25〜29歳の一般労働者の賃金は月279.4千円です*3。1社に長くいた人が自分の経歴を測るときは、他社の求人票の給与欄と比べるのではなく、自分がこの年代だった頃の水準と、今の水準を並べる方法があります。
比べる対象を他社に求められないときは、自分の過去と今を並べる方法が残ります。25〜29歳のときに任されていた仕事の範囲と、今任されている仕事の範囲を並べれば、社外との比較がなくても、伸びを数字と言葉の両方で示せます。
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5. 積み上げてきた判断は、3段の図で説明できます。
同じ会社に長くいた経験は、積み上げの深さとして整理できます。3つの層に分けて確認します。
最初の層は、決められた手順どおりに作業を進められるようになった段階です。ここまでは、在籍期間が短くても到達できます。
次の層は、その手順がなぜそうなっているかを理解した段階です。作った当時の事情、後から出た不具合、直したときの判断を知っているのは、1社のなかで長く関わった人に多い経験です。
最上位の層は、状況が変わったときに、自分で判断して手順そのものを変えた段階です。この層まで届いた経験を職務経歴書に書けるかどうかが、強みとして読まれるかどうかの分かれ目になります。
3つの層は、在籍年数の長さに関係なく積み上がります。ただし土台の層だけで在籍年数が終わっている場合、職務経歴書に書ける判断の数は少なくなります。どの層まで届いているかを、まず自分で確認しておく必要があります。
6. 弱みとして挙げた3点は、書き方次第で消えます。
分岐で挙げた3つの弱みは、書き出して埋め方を決めれば、職務経歴書の行に変えられます。
弱みを職務経歴書の行に変える3つの埋め方
- 自社の言葉に偏る:使っている用語を一般名称に置き換えます。「当社の基幹システム」ではなく、扱った技術や役割の名称で書きます。
- 比べる相手がいない:良かった点と直したい点を、自分の1社のなかの前後(導入前と導入後、変更前と変更後)で比べます。他社と比べる材料がなくても、時系列の比較は書けます。
- 手順が「当社ではこうする」で止まる:手順の説明に、その手順が採られた理由まで一段掘り下げて書きます。理由まで書けば、社外の人にも判断の筋が伝わります。
- 自己PRの一文:3点を埋めたら、最後に短い自己PRの一文を添えます。書き方の詳細は別記事に譲りますが、ここで書いた判断の内容をそのまま使えます。
3つの埋め方は、いずれも新しい経験を付け足す作業ではありません。すでに会社のなかで起きたことを、外の人にも伝わる言葉に置き換える作業です。
埋める順番は決まっていません。書きやすいところから手を付け、3点がそろった段階で、職務経歴書の1行として並べ直します。
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7. よくある質問(Q&A)
Q1. 1社の経験だけで、書類選考は通過できるか。
A. 通過できます。選考で読まれるのは在籍した企業の数ではなく、その会社のなかで何を任され、どんな判断を重ねたかです。判断の内容が書かれていれば、企業数の少なさは通過の妨げになりません。
Q2. 同じ会社に長くいたことは、面談でどう伝えればよいか。
A. 年数そのものではなく、その年数のなかで変わった仕事の中身と、任された判断を時系列で伝えます。仕組みが変わっていく様子を最初から最後まで見てきた経験は、短い期間では作れません。
Q3. 比べる相手がいないことは、面接で不利になるか。
A. 比べる相手がいないこと自体は不利になりません。ただし、良かった点と直したい点を自分の中の前後で比較する準備をしていないと、質問に対して答えが浅くなります。
Q4. 転職入職率が低いなら、同じ会社にとどまる人が大半なのか。
A. 大半です。厚生労働省の調査では、転職入職率は9.7%でした*1。1年間で会社を移る人は少数派であり、同じ会社に長くとどまる働き方のほうが統計の上では多数派です。
Q5. 職務経歴書の行数を、在籍企業が1社しかないときはどう配分すればよいか。
A. 在籍期間の説明に使う行数を減らし、判断の内容に使う行数を増やします。在籍期間や部署名は1行で済ませ、判断した場面ごとに1〜2行を割り当てると、書類全体の密度が上がります。
8. まとめ:1社の経験は、判断の回数で読まれます。
この記事の要点
- 転職入職率は9.7%です*1。1年間で会社を移る人は少数派で、同じ会社に長くとどまる働き方は珍しい選び方ではありません。
- 2025年の転職者数は330万人でした*2。この数と比べても、在籍年数の長さは特別な少数派ではありません。
- 25〜29歳の一般労働者の賃金は月279.4千円です*3。1社に長くいた人は、この年代の水準からの伸びを、自分の成長を示す数字として使えます。
- 1社の経験が弱みに読まれるか強みに読まれるかは、在籍年数ではなく、職務経歴書に判断の内容をどれだけ書けているかで決まります。
この経験は、比べる相手がいないことを理由に小さく見せる必要はありません。作業を覚えた段階から、仕組みを分かった段階、そして自分で判断して変えた段階まで、積み上げてきた内容を書き出すところから始めましょう。書き出す作業は一度で終わらせず、年ごとに区切って見直すと、後から思い出す判断が増えていきます。
※公開中の求人数は時期によって変わります。記事中の求人の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(2025年公表)
*2 総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果」(2026年公表)
*3 厚生労働省「令和7(2025)年賃金構造基本統計調査の概況」(2026年3月公表)
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