通勤手当は割増賃金の基礎に入る?残業代の計算から除く手当

給与明細の残業代を自分で計算してみると、会社の金額と合わないことがあります。原因の1つが、1時間あたりの賃金を出すときに、通勤手当を入れるか外すかの違いです。
通勤手当は、通勤距離か通勤にかかる実際の費用に応じて決まる手当なら、割増賃金の基礎から除くことができます*3。反対に、距離や費用に関係なく一律に支給される通勤手当は除外できず、基礎に入れて残業代を計算します*3。除外できるのはこれを含む7つに限られ、それ以外の賃金はすべて基礎に入ります*3。
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監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事のポイント
- 割増賃金の基礎から除外できる通勤手当は、通勤距離か通勤にかかる実際の費用に応じて算定される手当です*3。
- 実際の通勤距離にかかわらず一律に支給する通勤手当は、除外できず、基礎に入れて計算します*3。
- 除外できるのは家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時の賃金・1か月を超える期間ごとの賃金の7つだけです*3。
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1. 通勤手当は実費や距離に応じた額なら割増賃金の基礎から除ける
通勤距離か実際の費用に応じて算定される通勤手当は、割増賃金の基礎から除けます。全員に同じ額を払う形の通勤手当は除外できません*3。
労働基準法第37条第5項は、割増賃金の基礎となる賃金に、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しないと定めています*1。ただし、その名前の手当なら何でも除けるわけではありません*3。
除外できる通勤手当とは、通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される手当のことです*3。6か月定期券の金額に応じた費用を支給する形は、除外できる例に挙がっています*3。除外できない例は、実際の通勤距離にかかわらず1日300円を支給する場合です*3。
つまり、同じ名前の手当でも、定期代の実費を払う形なら残業代の計算から外れ、全員に同じ額を払う形なら残業代の計算に入ります。自分の手当がどちらの形かで、1時間あたりの賃金が変わります。
残業代の計算は、どの賃金を基礎に入れるかを決めるところから始まります。基礎に入れる賃金が多いほど1時間あたりの賃金は高くなり、残業代も増えます。通勤の距離が長い人ほど手当の額は大きくなるので、入れるか外すかの違いが毎月の残業代に表れやすいのです。
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2. 割増賃金の基礎から除外できる7つの賃金
基礎から外せる賃金は、次の7つです*2*3。これは例を挙げたものではなく、限定して並べたもので、当てはまらない賃金はすべて基礎に入れなければなりません*3。
割増賃金の基礎から除外できる賃金(労働基準法第37条第5項・施行規則第21条)
| 除外できる賃金 | 除外できるときの条件 |
|---|---|
| 家族手当 | 扶養する人数などを基準に算出した手当*3 |
| 通勤手当 | 通勤距離か実際の費用に応じて算定される手当*3 |
| 別居手当 | 施行規則第21条に挙がっている*2 |
| 子女教育手当 | 施行規則第21条に挙がっている*2 |
| 住宅手当 | 住宅にかかる費用に応じて算定される手当*3 |
| 臨時に支払われた賃金 | 結婚手当など、臨時に支払われるもの*2 |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与など*2 |
このうち家族手当、通勤手当、住宅手当の3つは、名前ではなく中身で判断します*3。たとえば住宅手当でも、賃貸住宅に住む人に一律2万円、自宅を所有する人に一律1万円を払うような形は除外できない例に挙がっています*3。
家族手当も同じ考え方です。配偶者1人につき月1万円、その他の家族1人につき5千円のように人数で計算する手当は除外できます*3。扶養する人の数に関係なく一律に月1万5千円を払う形は、除外できない例です*3。
役職手当や職務手当、資格手当のように7つに入らない手当は、割増賃金の基礎に入れます*3。給与明細の手当を、7つに入るものと入らないものに分けるところから計算が始まります。
賞与のように1か月を超える期間ごとに払われる賃金や、結婚手当のように臨時に払われる賃金も、基礎から外れます*2*3。月給に含まれて毎月払われる手当かどうかで、まず大きく分けると整理しやすくなります。
3. 残業代の割増率と1時間あたりの賃金の出し方
割増賃金は、1時間あたりの賃金額に、時間外労働や休日労働、深夜労働をした時間数と、割増率を掛けて出します*3。割増率の下限は次のとおりです*3。
月給制の場合、1時間あたりの賃金額は、月の所定賃金額を1か月の平均所定労働時間数で割って出します*3。このときの月の所定賃金額に、除外できない形の交通費が入るかどうかが、残業代の差になります。
1か月の平均所定労働時間は、年間の所定労働日数に1日の所定労働時間を掛け、12で割って出すのが一般的な形です。年間休日が120日で1日8時間なら、245日×8時間÷12で約163時間になります。
時間外労働が深夜(午後10時から午前5時まで)に及んだときは、2割5分と2割5分を足して5割以上になります*3。休日労働が深夜に及んだときは、3割5分と2割5分を足して6割以上です*3。
4. 通勤手当を入れるかで変わる残業代の計算例
説明のための仮の数字で計算してみます。基本給が月28万円、1か月の平均所定労働時間が160時間で、通勤のための手当が月1万5,000円の人です。
その手当が定期代の実費に応じた額なら、基礎から除けます*3。1時間あたりの賃金は28万円÷160時間で1,750円、時間外労働1時間の残業代は1,750円×1.25で約2,188円です。
距離に関係ない一律の額なら、基礎に入れます*3。1時間あたりの賃金は29万5,000円÷160時間で約1,844円、時間外労働1時間の残業代は約2,305円になります。1時間で約117円の差なので、月30時間の残業なら約3,500円の違いです。
1年に直すと約4万2,000円の差です。差額は小さく見えても、残業の多い月が続けば積み重なるので、給与明細の手当が実費型か一律型かは一度見ておく価値があります。賃金規程を読めば、どちらの形かはすぐに分かります。
会社の計算と自分の計算が合わないときは、どちらの扱いで計算しているかを給与の担当者に聞くと、差の原因がはっきりします。就業規則や賃金規程で、手当の支給の基準を読んでおくと話が早く進みます。
深夜に及ぶ残業なら割増率は5割以上になるので*3、同じ1時間でも差はさらに広がります。月ごとの残業時間が多い職場ほど、交通費を基礎に入れるかどうかの違いが給与に表れやすくなります。
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5. 最低賃金の計算とは通勤手当の扱いが違う
最低賃金のほうは、どんな基準で払われる通勤手当でも外して時給を出します。割増賃金の計算では、一律に払う形なら基礎に入ります*3。同じ手当でも、何を計算するかで扱いが変わる点に注意してください。
最低賃金と比べる時給は、交通費の分を外して出します。残業代の時給は、その交通費が何を基準に払われているかを見てから、外すか入れるかを選びます。給与明細を見ながら計算するときは、どちらの計算をしているのかを先に書いておくと取り違えません。
たとえば、全員に一律で月1万円の交通費を払っている会社なら、最低賃金と比べるときはその1万円を外し、残業代を計算するときは1万円を含めます。1つの給与明細から、目的の違う2つの時給を出すことになります。
リモートワーク中心の働き方では、出社した日数に応じて交通費の実費を払う会社もあります。実費に応じて払われる交通費なら、通勤手当と同じく残業代の計算から外せる形に当たります*3。
6. 残業代が合わないときに見る書類
計算が合わないときは、給与明細、雇用契約書か労働条件通知書、就業規則の賃金規程の3つを手元にそろえます。給与明細で手当の名前と額を、賃金規程で各手当の支給の基準を見ます。
賃金規程に「通勤距離に応じて支給する」「定期代の実費を支給する」とあれば、除外できる形です*3。「全員に月1万円を支給する」のように一律の額なら、割増賃金の基礎に入れる形です*3。
会社に聞いても分からないときは、最寄りの都道府県労働局か労働基準監督署に問い合わせられます*3。給与明細と賃金規程の写しを持っていけば、どの手当をどう扱っているかを一緒に見てもらえます。
転職先を選ぶときも、求人票や労働条件通知書で交通費の支給方法を見ておくと、入社後の残業代の計算が見通せます。「交通費全額支給」「上限月3万円まで実費支給」のように実費で払う形か、「一律支給」の形かは、求人票の待遇欄に書かれていることがあります。
7. よくある質問
Q1. 通勤手当は残業代の計算に入りますか?
A. 定期代の実費のように、かかった費用に合わせて払われる額なら除外できます*3。全員に同じ額が払われるなら、計算に入ります*3。
Q2. 割増賃金の基礎から除外できる手当はいくつありますか?
A. 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時の賃金・1か月を超える期間ごとの賃金の7つで、限定して並べたものです*3。
Q3. 役職手当は残業代の計算に入りますか?
A. 入ります。7つに当てはまらない賃金は、すべて割増賃金の基礎に入れなければなりません*3。職務手当や資格手当も同じで、毎月払われていれば1時間あたりの賃金に含めて計算します。
Q4. 月60時間を超える残業の割増率はいくらですか?
A. 5割以上です*3。中小企業にも2023年4月1日から適用されています*3。
Q5. 最低賃金の計算でも一律の通勤手当は入れますか?
A. 入れません。最低賃金の計算では、支給の基準に関係なく外れます。
Q6. 出社した日だけ交通費を払う会社では残業代はどう計算しますか?
A. 実際にかかった交通費に応じて払う形なら除外できるので*3、交通費を除いた基本給や手当で時給を計算します。
Q7. 住宅手当も通勤手当と同じように扱いますか?
A. 考え方は同じです。住宅にかかる費用に応じて算定される住宅手当は除外でき、住宅の形ごとに一律の額を払う形は除外できません*3。
8. まとめ:通勤手当は支給の基準で割増賃金の基礎に入るかが変わる
この記事のまとめ
- 通勤距離か実費に応じた通勤手当は、割増賃金の基礎から除外できる*3
- 距離や費用に関係なく一律に払う通勤手当は、除外できない*3
- 除外できる賃金は7つに限られ、それ以外はすべて基礎に入れる*3
- 1時間あたりの賃金は、月の所定賃金額÷1か月の平均所定労働時間数*3
- 最低賃金の計算では、どんな支給の基準でも除く
給与明細と賃金規程を出して、交通費が実費か一律かを読み、残業代の計算に入れるかどうかを決めてから1時間あたりの賃金を出してください。合わない分があれば、計算の根拠を書いたメモを添えて会社の給与担当者に聞いてください。
※公開中の求人数は時期によって変わります。記事中の求人の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 労働基準法 第37条(e-Gov法令検索)
*2 労働基準法施行規則 第21条(e-Gov法令検索)
*3 割増賃金の基礎となる賃金とは?(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署・2024年3月)
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